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現在のうつ病
現在のうつ病
私が研修医の頃は,はじめに中年のうつ病患者をみるのがいいと先輩に言われた。彼らの人生において,うつ病は特別な出来事であり,言い換えると非日常的な出来事であり,
薬物療法と休養により一旦回復し現実社会に戻るとすみやかに,もとの役割同一性に戻り,社会に復帰していった。自分が患者さんの回復に役立ったという実感をもつことができた。
現在,日本のうつ病などの気分障害疾患が90万人に到達し,外来を訪れる患者さんも爆発的に増えた。
上述のような古典的なうつ病から私たち心療内科,精神科医を悩ます多様な病態も出現してきている。
松浪が提唱する現代型うつ病はその典型である。従来型のうつ病と比べて早期に受診して,病型が不全であるとか,制止や抑制が選択的であるとか,従来のうつ病者が無趣味であったのに,意外に趣味を持っていたり,かつてのうつ病のような他者配慮性がなくどちらというと自己中心的であったり,職場恐怖的な心性が特徴の一つであるとされる。
一体化傾向がない,職場で几帳面さを出さない,自分のペースを乱されるのを嫌う。罪悪感が少ない。また,他罰傾向があり,しがみつかない特徴がある。
しかし,古典的なメランコリー型うつ病と様相が異なるが現代型うつ病は「軽症内因性うつ病」である。軽症ゆえに,病気に押し流されない,病気に完全に圧倒されないので自分が陥った状態について認識がある程度できていて心理的解釈をする。さらに対処行動を活発にするので,注意しなくては非内因性の病態と区別できないこともある。
また,アキスカルが1980年前後に単極型のうつ病にも双極性の要素が含まれていると提唱したが,逆説的に鬱の重しがないときに軽躁状態が出現しやすくなり,soft-bipolarが以前より多くなってきているように思われる。現代型うつ病は青年期から中年期の心性である。従来のメランコリー型うつ病は中年期の心性であった。青年期の延長現象も一段も二段も増大している。
また軽症だから治りやすいわけではなく,軽症ゆえに発病したときの状況をよく覚えていて,なかなか職場に復帰できないことも少なくない。
表 「現代型うつ病」(1991 松浪)
1 比較的若年の男性に多い。
2 症状が出そろわない発症早期に受診する(不全型)
3 当惑ないし困惑を訴える
4 制止が主景であり,身体的不定愁訴を訴えることがある
5 趣味などの快を求める私的活動領域を持っていることが多い。
6 対他配慮性が少なく,自己中心的にみえる
7 組織への一体化を密かに忌避,罪責感の表明が少ない。
8 几帳面,律儀ではなく,インクルデンツを回避している。
9 レマネンツを恐怖している;締め切りに弱い,職場恐怖症的心理を有する。
インクルデンツとレマネンツ
封入性(インクルデンツ)メランコリーと負目性(レマネンツ)メランコリー
メランコリーの仕組みを空間的に捉えたものが封入性メランコリー、時間的にとらえたものを負目性メランコリーという。
封入性メランコリーはメランコリー者が秩序が乱される事を避けるために自分自身が持つ秩序の中に閉じ込められてしまう事である。
これによって絶えず変化する環境との折り合いが付けられなくなり、メランコリーへと陥っていく、転居や学校を卒業したり入学する時にこのようなメランコリーがみられる。
負目性メランコリーは時間的に遅れをとっているという負目の事である。
これはやるべき仕事を十分に出来なかったとかあるべき状態でないという負目として現れる、仕事や道徳的な事など量と質どちらにも関連する
ディスチミア親和型うつ病の症候学的特徴など(樽味伸 遺稿データより)
主訴 「やる気がでない」「ストレスで 」といった漠然とした表明が中心
「考えがまとまらない」「物覚えが悪くなった」「仕事ができない」といった抑制に関する訴えは比較的少ない。
「人間関係で悩んでいます」といった“状況の訴え”はみられるが,ディスチミア特異的ではないかもしれない
現症 表情はそれほど深刻でない。思路の停滞や悲哀感も強くはない。
受付時や待合室での様子,そのほかの立ち居ふるまいに,疲弊•消耗した感じを与えることはそれほどない。
しかし,生気にあふれているわけでは決してなく,沈鬱ではないが元気がない。
問えば,様々な抑うつ症状を訴える。
症候:問診上,うつ病の診断基準は満たされる。憂うつな感じがあり,それが社会機能を低下させる。
:不全感(うまくいかない)と倦怠感(どうでもいい,やる気にならない)が中心で,
抑制や焦燥は稀
意欲の低下:「やる気がでない」と表明される。その「きっかけ」も表明される。しかし, それまでに「やる気」が十分な時期があったかといえば,そういう時期はあまりなく,屈曲点(発症時期)が極めて不分明である。
食欲の低下:しばしば存在する。しかし「味がしなくなり砂を噛むような感じ」というような訴えは少ない。もともと食への執着が薄い「何となく食べていない」
睡眠障害:メランコリー親和型と同様に存在する。
日内変動:それほど明らかではない。いつもだるい。
季節性:認められにくい。また双極性のエピソードを持つことは極めて稀である。
希死念慮:たとえ抑うつが軽度であっても,しばしば表明される。治療的に「死なない約束」を取り付けようとしても確証や手応えを得られない。
自殺企図:ときに手首自傷,酩酊を味合うような(必ずしも死を前提としない)大量服薬。しかし“死”に関して悩む課程が欠如したまま“軽やかに”完遂しかねないような懸念を治療者に抱かせることもある。
人格(その他):自己愛人格の問題を意識させることもあるが,人格障害として診断基準を満たすほどの偏りは少ない。回避性人格という範疇からは一般に遠い。シゾイドのような固さもない。
境界型人格障害にも合致しないし,周囲を振り回すような派手な行動化もみられない。大量服薬も,別に周囲への当てつけではない。「いらいらするので飲んでしまった」
“つるん”として取っかかりのない,執着の少ない,抑うつ
抗うつ薬は対症的なものにすぎないけれど「下地」としてあってもよいと告げる。
うつ病は大変ポピュラーな病気である
うつ病の生涯有病率は高く,女性10〜25%,男性でも5〜12%と言われています。また,現時点有病率は女性で5〜9%,男性は2〜3%である。単に頻度が高いだけでなく,それがもたらす主観的苦悩や社会的機能障害も大きい。男性では,離婚,別離,就労上の問題が,女性は,近親者の重篤な病気や死亡といった身近な社会的つながりに関することに敏感である。初回のエピソードの場合は大きなストレスによってうつ病が発症する場合が多いけれど,エピソードを繰り返す毎にストレスの関与は小さくなること,また慢性のうつ病では,ストレスの存在は,症状の重症化や不良の転帰につながっていることなども明らかになっている。

薬物療法と休養により一旦回復し現実社会に戻るとすみやかに,もとの役割同一性に戻り,社会に復帰していった。自分が患者さんの回復に役立ったという実感をもつことができた。
現在,日本のうつ病などの気分障害疾患が90万人に到達し,外来を訪れる患者さんも爆発的に増えた。
上述のような古典的なうつ病から私たち心療内科,精神科医を悩ます多様な病態も出現してきている。
松浪が提唱する現代型うつ病はその典型である。従来型のうつ病と比べて早期に受診して,病型が不全であるとか,制止や抑制が選択的であるとか,従来のうつ病者が無趣味であったのに,意外に趣味を持っていたり,かつてのうつ病のような他者配慮性がなくどちらというと自己中心的であったり,職場恐怖的な心性が特徴の一つであるとされる。
一体化傾向がない,職場で几帳面さを出さない,自分のペースを乱されるのを嫌う。罪悪感が少ない。また,他罰傾向があり,しがみつかない特徴がある。
しかし,古典的なメランコリー型うつ病と様相が異なるが現代型うつ病は「軽症内因性うつ病」である。軽症ゆえに,病気に押し流されない,病気に完全に圧倒されないので自分が陥った状態について認識がある程度できていて心理的解釈をする。さらに対処行動を活発にするので,注意しなくては非内因性の病態と区別できないこともある。
また,アキスカルが1980年前後に単極型のうつ病にも双極性の要素が含まれていると提唱したが,逆説的に鬱の重しがないときに軽躁状態が出現しやすくなり,soft-bipolarが以前より多くなってきているように思われる。現代型うつ病は青年期から中年期の心性である。従来のメランコリー型うつ病は中年期の心性であった。青年期の延長現象も一段も二段も増大している。
また軽症だから治りやすいわけではなく,軽症ゆえに発病したときの状況をよく覚えていて,なかなか職場に復帰できないことも少なくない。
表 「現代型うつ病」(1991 松浪)
1 比較的若年の男性に多い。
2 症状が出そろわない発症早期に受診する(不全型)
3 当惑ないし困惑を訴える
4 制止が主景であり,身体的不定愁訴を訴えることがある
5 趣味などの快を求める私的活動領域を持っていることが多い。
6 対他配慮性が少なく,自己中心的にみえる
7 組織への一体化を密かに忌避,罪責感の表明が少ない。
8 几帳面,律儀ではなく,インクルデンツを回避している。
9 レマネンツを恐怖している;締め切りに弱い,職場恐怖症的心理を有する。
インクルデンツとレマネンツ
封入性(インクルデンツ)メランコリーと負目性(レマネンツ)メランコリー
メランコリーの仕組みを空間的に捉えたものが封入性メランコリー、時間的にとらえたものを負目性メランコリーという。
封入性メランコリーはメランコリー者が秩序が乱される事を避けるために自分自身が持つ秩序の中に閉じ込められてしまう事である。
これによって絶えず変化する環境との折り合いが付けられなくなり、メランコリーへと陥っていく、転居や学校を卒業したり入学する時にこのようなメランコリーがみられる。
負目性メランコリーは時間的に遅れをとっているという負目の事である。
これはやるべき仕事を十分に出来なかったとかあるべき状態でないという負目として現れる、仕事や道徳的な事など量と質どちらにも関連する
ディスチミア親和型うつ病の症候学的特徴など(樽味伸 遺稿データより)
主訴 「やる気がでない」「ストレスで 」といった漠然とした表明が中心
「考えがまとまらない」「物覚えが悪くなった」「仕事ができない」といった抑制に関する訴えは比較的少ない。
「人間関係で悩んでいます」といった“状況の訴え”はみられるが,ディスチミア特異的ではないかもしれない
現症 表情はそれほど深刻でない。思路の停滞や悲哀感も強くはない。
受付時や待合室での様子,そのほかの立ち居ふるまいに,疲弊•消耗した感じを与えることはそれほどない。
しかし,生気にあふれているわけでは決してなく,沈鬱ではないが元気がない。
問えば,様々な抑うつ症状を訴える。
症候:問診上,うつ病の診断基準は満たされる。憂うつな感じがあり,それが社会機能を低下させる。
:不全感(うまくいかない)と倦怠感(どうでもいい,やる気にならない)が中心で,
抑制や焦燥は稀
意欲の低下:「やる気がでない」と表明される。その「きっかけ」も表明される。しかし, それまでに「やる気」が十分な時期があったかといえば,そういう時期はあまりなく,屈曲点(発症時期)が極めて不分明である。
食欲の低下:しばしば存在する。しかし「味がしなくなり砂を噛むような感じ」というような訴えは少ない。もともと食への執着が薄い「何となく食べていない」
睡眠障害:メランコリー親和型と同様に存在する。
日内変動:それほど明らかではない。いつもだるい。
季節性:認められにくい。また双極性のエピソードを持つことは極めて稀である。
希死念慮:たとえ抑うつが軽度であっても,しばしば表明される。治療的に「死なない約束」を取り付けようとしても確証や手応えを得られない。
自殺企図:ときに手首自傷,酩酊を味合うような(必ずしも死を前提としない)大量服薬。しかし“死”に関して悩む課程が欠如したまま“軽やかに”完遂しかねないような懸念を治療者に抱かせることもある。
人格(その他):自己愛人格の問題を意識させることもあるが,人格障害として診断基準を満たすほどの偏りは少ない。回避性人格という範疇からは一般に遠い。シゾイドのような固さもない。
境界型人格障害にも合致しないし,周囲を振り回すような派手な行動化もみられない。大量服薬も,別に周囲への当てつけではない。「いらいらするので飲んでしまった」
“つるん”として取っかかりのない,執着の少ない,抑うつ
抗うつ薬は対症的なものにすぎないけれど「下地」としてあってもよいと告げる。
うつ病は大変ポピュラーな病気である
うつ病の生涯有病率は高く,女性10〜25%,男性でも5〜12%と言われています。また,現時点有病率は女性で5〜9%,男性は2〜3%である。単に頻度が高いだけでなく,それがもたらす主観的苦悩や社会的機能障害も大きい。男性では,離婚,別離,就労上の問題が,女性は,近親者の重篤な病気や死亡といった身近な社会的つながりに関することに敏感である。初回のエピソードの場合は大きなストレスによってうつ病が発症する場合が多いけれど,エピソードを繰り返す毎にストレスの関与は小さくなること,また慢性のうつ病では,ストレスの存在は,症状の重症化や不良の転帰につながっていることなども明らかになっている。


